電車で出会った障害者 12の謎

これはもう10年ぐらい前の話である。

ボクは帰宅の途中で、京浜東北線に乗っていた。

座り席は全部埋まっていて、1車両に数人が立っている程度の混雑具合。

近くに対象者もいないようだったので、ボクは優先席に座っていた。

隣に座っている男は、30代のサラリーマン風だった。

そして彼女はやってきた

駅に停まり、数人が同じ車両に乗ってきた。

と同時に、40代の外国人男性を連れた女が、一直線に私の前に来て、カードを目の高さで提示してこう言った。

「私は障害者です。席を代わってください」

 感じは伝わりにくいと思うが、警察が不審者に職務質問するぐらいのもの凄くきっぱりした口調と動作だった。

外見ではどこに障害を持っているのか分からなかったし、その詰問調のお願いに正直唖然とした。

カードもちらっと見せただけなので確認のしようもなかった。

女は20代後半の日本人に見えたが、日本人としての立ち振る舞いには違和感があった。

ボクは唖然として隣を見た。

隣のサラリーマン風の男も「一体何が起こっているの?」という顔でボクの方を向き、不思議さを共有した。

ボクの方が一瞬早く正気に戻ったので、腰を浮かせて、女に「どうぞ」と席を譲った。

女は、当たり前という表情で席に座った

お礼はなかった。

そしてボクは彼女の前に立った。

電車は走り出した。

女は連れの外人とずっと会話していた。

ボクは、こういったことは初めての経験だった。

しばらくしても、まだうまく事態を呑み込めなかった。

上から眺めても彼女が本当に障害者なのか、それらしい兆候は見えなかった。

「もう少しやんわり言ってくれたら、こちらも譲って気持ちがいいのにな」とか「障害者だとしてもお礼ぐらい言えよな」とぼんやり考えた。

電車は進み、さきほど顔を見合わせた男性が途中の駅で席を立った。

ボクと女の連れの外人のどちらが座ってもおかしくない位置だった。

と、席が空いた瞬間、その女は「さも当然というふうに」自分の連れを誘導してその席に座らせた。

へ?

とボクは思った。

当然、自分の駅で女が降りる時もボクにお礼はなかった。

ボクが席を代わった後は、ボクのことは完全無視でした。

と、体験はここで終わり。

でも何かひっかかる

村上春樹のエッセイを思い出した

作家の村上春樹氏が、ずっと以前、アルバイト雑誌にエッセイを連載していた。

その時に、読んだ「教訓」が今回のケースと重なって、ずっと覚えている。

確か趣旨としては、ある話から得る教訓というものは受け止め方は人それぞれであり、例えば「野菊の墓」から「健康は大事」という教訓を得ても、それはそれでものすごく意味のあることなんだ、というような内容だったと記憶している。

そのエッセイ中次のような話があった

ある有名な前衛音楽家のもとに、音楽を志す大学生が自分の演奏した音楽を聴いてくださいとオープンリールのテープを持ちこんだ。その演奏と音楽を聴いて、音楽家は大絶賛した。しかし、実はテープは反対向きにセットされており、音楽家が聴いたのは逆回しの演奏だった。これを正直に伝えるか大学生は迷ったが、ウソはつけないと、本当のことを伝えたところ、前衛音楽家は大学生に大激怒した。(記憶抜粋 村上春樹氏のエッセイより)

村上氏は考えられるだけ教訓をあげている

  • もともと、前衛音楽家なんてその程度のものだ
  • 本当のことを言ってもロクなことがない
  • 音楽の良しあしの判断なんてそんなもんだ
  • 良い演奏は、逆から聞いてもいいものだ

などなど。

本文では確か20ぐらいあげていたかな?

同じようにこの件で、何かひっかかる疑問点をあげてみる

  1.  女は本当に障害者だったのか?
  2. 「カードを見せてください」と言ってもよかったのか?
  3. 障害者に「何の障害?」と聞くことは失礼なのか?
  4. 混雑していないとはいえ優先席に座っていたことに女は腹を立てたのか?
  5. なぜ、席を代わってお礼を言ってくれないのか?
  6. なぜ、高飛車な態度で席を代わってもらうのか?
  7. なぜ、席を譲ったボクに席を勧めないで当たり前のように自分の連れを座らせるのか?
  8. 高飛車な態度で権利を主張するのは、障害者界ではそれほど不自然ではないのか?
  9. 何らかの恥ずかしさや引け目があって、女はあのような対応になったのか?
  10. 20代の女と40代の外人のペア、関係が想像できないんだけど?
  11. 立ち振る舞いから女は日本スタイルに慣れていないだけだったのか?
  12. こんなことをいちいち考えること自体、ボクの人間が小さいのか?

ボクだって席を譲ることは全く問題ないし、それは障害者、健常者問わずお願いされたら理由を問わず代わってあげる。

目の前に、立っているのがしんどそうな人がいれば、黙って席を立ち遠い場所に移動する。

でも、さすがに、最低限の、マナーは、ねえ、と思ってしまう。