『臨 月』中島みゆき 1981年 レビュー







「臨 月」名盤レビュー

このアルバム(臨月)とは

中島みゆきの臨月は、ボクがアイドルやアニメ以外で初めて買ったLPレコードです。

当時、演歌やフォークソングに対比してニューミュージックと呼ばれたジャンルだったと記憶します。

当時ニューミュージックと呼ばれていた女性アーティストには松任谷由実、八神純子、渡辺真知子などがいます。

昭和バブルど真ん中のアルバムで、しかも中島みゆきですから、小~中学生のリスナー(当時のボク)にしてはちょっとヘビーだったかなと思います。

景気がえげつなく上昇している中での、地に根が張ったような普遍的な歌ですから、それに逆に引き込まれたのかもしれません。

時期がちょっとずれて「生きていてもいいですか」を初めて買っていたら、もっとインパクト?があったでしょう。

とはいえ、感受性ももちろんコドモですから、聴き方も今とはかなり違っていました。

たくさんいるニューミュージックアーティストの中で、どうして中島みゆきをセレクトしたのかはっきりとは思い出せませんが、世界歌謡音楽祭で「わかれうた」がグランプリをとったり、桜田淳子の「追いかけてヨコハマ」、研ナオコの「カモメはカモメ」の作詞作曲が彼女だったりと、時折テレビで目にするわりかし好きな歌を作っている人であったことは大きかったと思います。

それに中島みゆきというのは他の歌謡曲歌手とはちょっと違う立ち位置を持っていることがなんとなく新鮮でした。

この臨月の中に、当時のヒット曲「ひとり上手」が入っていますが、正直彼女が生でこの歌を歌っているのを見たことがありません。

つまりテレビには出ていなかったんじゃないかなあ?

何はともあれ、はじめてのレコードをA面、B面と繰り返し繰り返し聞きました。

これしかレコードがないのですから、くどいほど聞きました。

今でも全曲最後まですべて歌えると思います。

今でもこのアルバムを聴くと、当時の自分の様子と当時の気持ちが甦ってきます。

レコードの33回転、45回転とか、MCカートリッジ、MMカートリッジなどの、今では使わなくなった言葉も思い出します。

曲 目

  1. あした天気になれ(編曲:星勝)
  2. あなたが海を見ているうちに(編曲:安田裕美)
  3. あわせ鏡(編曲:松任谷正隆)
  4. ひとり上手(編曲:萩田光雄)
  5. 雪(編曲:萩田光雄)
  6. バス通り(編曲:萩田光雄)
  7. 友情(編曲:松任谷正隆)
  8. 成人世代(編曲:星勝)
  9. 夜曲(編曲:松任谷正隆)

↑クリックで試聴できます

懐かしんだり、アルバムの雰囲気をお楽しみください。

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1. あした天気になれ

編曲も歌詞もインパクトが大きい 1曲目。

宝くじを買うときは 当たるはずなどないと言いながら買います

この歌詞が頭から離れない。宝くじ=男選びってこと、そうだよね?

逆説と倒置と、期待と失望とあきらめが歌詞に込められ、切ない歌です。

そんなひどい男ばかりじゃないって、って言いたくもなる。

どんだけ大変な思いをしたの?

この当時のみゆきさんの歌詞からは、恋愛に関しては自分で道を切り開いていくというよりも、男は運なのか?すがっちゃダメなのか?私の行動はどのように見えてるか?といった古典的な女性観がにじみ出ている。

対峙するのは相手の男性ではなくて自分自身である。

自分の淡い願望はおいておいて決断するのは男性である。

自分で決められることはあきらめ、だけである。

そうした思想がこの1曲に凝縮されている。「あした天気になれ」と。

2. あなたが海を見ているうちに

まだ未練があるものの、新しい恋人がいることを装って女性の方から海辺の町で別れを切り出す。

「じゃあ、新しい彼氏が待っているから」とその場を離れるものの、そんな人はいないためバス停まで歩く。

今振った彼氏を振り返りたいけれど、もういないことは分かっているから振り返れない、とそんな話。

未練たっぷり、思い入れたっぷり、でも自分から別れる。

これが例えばユーミンの歌詞なら、別れの理由の種明かしが入っていると思うのだが、この歌詞にはそれはない。

ただ、別れは本心じゃないとよいう気持ちと予感を残しているのだ。

3. あわせ鏡

やけになってしまい、もう誰にも相手されなくなる一歩手前の女性の話と思われる。

持っているグラスをのぞいたら、偶然背後の鏡とあわせ鏡状態になって、自分の背中がグラスに映った。

演技している表の顔と違って、想像以上に自分の後姿はみすぼらしく誰かに見透かされたような気がして、映してるグラスを両手で壊してしまう。

クスリとお酒で「大丈夫」を装っても、自分が演じる誰かを決められない。

透けている背中をもう見たくない、もうグラスを壊したくない。

自己嫌悪の無限ループ中である。

4. ひとり上手

彼から別れを切り出されることを予感していて、彼は別の女とよろしくやってるだろうと妄想して、それでもまだふんぎれない。

「私を置いていかないで」という彼女の本心は相手には決して素直に伝えない。捨てるなら、せめて電話にしてね、手紙じゃ思い出し泣いてしまうから。

普通に恋愛して、普通におわっただけよね、と納得したい。

悪い想像と淡い期待だけで、これをヒット曲にしてしまうあたりは流石である。

歌はボクも好きだが、ポップな曲調に反して女性特有の歌詞世界のためか、あまり積極的に再生ボタンを押せない曲でもある。

5. 雪

wikiではじめて知ったのだが、亡き父親の事を歌った曲だということである。

30数年間ずっと、亡くなった恋人の歌かと思っていました。

死んでなお、(歌として作ろうが作るまいが)娘の心にこのように残っていけたら、大多数の父親は本望だと思います。

6. バス通り

明るい歌い方とポップな編曲で、一見明るい歌のようですが。

もしかして昔誤解したままの彼が?と思って立ち寄ったバス停前の喫茶店、偶然が悪い方向に作用して新しい彼女と一緒の彼が自分の噂をしており、まだ好きという気持ちにとどめを刺されるというストーリー仕立ての一曲です。ラストの行では彼から昔もらった安物のガラスの指輪を外します。

歌詞構成は、アルバム『予感』の「夏土産」に近いかもしれません。

いやいや、偶然にしても自虐すぎるでしょう、と突っ込みたくもなります…

ご自愛ください。

7. 友情

シングル曲以外でこのアルバムで一番早く好きになった曲です。

中学生で聞いていたころはなんだかわかったような気になっていましたが、今回歌詞を見直すと、正直どういった場面のものかぴんと来なくなっていました。

これは歌詞の問題じゃなく、こういった歌詞の状況からボクの生活がしばらく遠い場所にいたためだと思います。

ですので、この曲を今聴くと、厨房時代の気持ちの片鱗が思い出されます。

切なく、余裕がない気持ちになります。

救われない魂は 傷ついた自分のことじゃなく

歌詞のこの部分の歌い方が一番好きです。

そーかー、松任谷正隆氏が編曲か、なるほどねえ。

この時期、ユーミンもよく聴いてたんだよなあ。

アレンジ、随分と赤いスイートピーとは違うなあ。

8. 成人世代

成人世代、というタイトルを歌詞から解釈してみます。

「年は20歳を超えてしまった。大人に加わるほどずるくないし、子供へはもう戻れない。すぐにでも届きそうな夢をテレビやポスターはうたうが、そこに乗り切れない僕らは大人の世代に紛れるしかないのか?悲しさ、寂しさ、やっかみを認めることで」

曲の部分では以下が大好きです。

テレビの歌はいかにもそこに いかにもありそうな お伽ばなしをうたう

の部分と

電車のポスターは いつでも夢が 手元に届きそうな ことばだけ選ぶ

の部分。

中島みゆきの歌は本人にはリアルでも、リスナーには恋愛のダークファンタジーといえるかもしれません。

お伽ばなしの語り部が、自ら「お伽ばなしをうたう」と宣言することで、現実をより強く聞き手に提示しています。

ゆとり世代の成人って、この歌のような感じ方はしないんだろうな、というのは偏見ですか?

9. 夜曲

この歌はだれか特定の人、もしかしたら複数を想いながら書いたのではないかな?

当時、小中学生だったころのボクは、次の歌詞の状況をよく想像していた。

あなたは今も 私の夢を 見てくれることがあるかしら

悲しい歌も 愛しい歌も みんなあなたのことを歌っているのよ

恋愛して、別れて、それでも時折彼女が自分を思い出してくれていたら、どんな気持ちなんだろうと。

やっぱり、嬉しいのかな?

思い出されることが嬉しくて、彼女も思い出すほど気にかけてくれていたら、「普通別れないよな」などととりとめなく考えていました。

そんな状態なら「別れる前にもう少し粘るよ、絶対」と。

すみません、なにぶん、厨房なものですから。

厨房の見解は厨房の見解として、この曲は女性の、中島みゆきの歌としては大好きです。

「雪」の話ではありませんが、歌の対象としては、亡くなった父が含まれていてもおかしくないような気がします。


最後に、amazonのレビューから共感できるコメントを引用させてもらいます。

明るくなったのは、松任谷さんのお・か・げ?
投稿者 プチこぶへい 投稿日 2005/6/8
形式: CD
「わかれうた」「生きていてもいいですか」「うらみます」澱んだ暗いみゆき様のイメージを払拭したのはこの名作です。プロデューサーは当時、「赤いスイトピー」で注目をあびていた松任谷正隆氏。さすが!ちがうなあ。プロデューサーの力を見せつけられた感じがします。
一押しは「夜曲」、歌詞とアレンジの絶妙感、深夜ラジオでこれを聞かせられたらハルシオンなみですよ。すばらしい。私は彼女の深夜ラジオでこの曲ばかりリクエストしてました。またヒット曲となった「あした天気になれ」「ひとり上手」など注目曲も忘れず、「あなたが海を見ているうちに」(池中玄太80キロで杉田かおる嬢がきいていましたね)「あわせ鏡」「雪」などいつものみゆき節も忘れていない、すばらしい一枚です。完成度が実に高いので☆5つ。次の「寒水魚」「予感」と彼女の第一次(勝手になづけましたが)黄金期を予感させます。

———AMAZONレビューより———

ボクも「寒水魚」と「予感」は大好きです。

発売後35年経っても好きでいられるアルバムがあることは幸せですし、そのアーティストが今も現役で第一線にいるということは、誇りにさえ感じます。

その代表が中島みゆきです。


『予 感』 中島みゆき 1983年 レビュー
『寒水魚』 中島みゆき 1982年 レビュー
『臨 月』中島みゆき 1981年 レビュー