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「昨晩お会いしましょう」名盤レビュー
このアルバム(昨晩お会いしましょう)とは
このアルバムは、松任谷由実(ユーミン)の12枚目のオリジナルアルバムであり、ボクが購入したはじめての彼女のLP盤である。
当時のユーミンの状況は、映画の主題歌「守ってあげたい」がスマッシュヒットしあたことにより低迷していた時期から抜け出しつつあった。
テレビを避けていなかったユーミンは、スケジュールが合えば歌番組にも出演し、当時のボクも「守ってあげたい」によって彼女のことを知った。
ただ不思議なことにボクにとって「守ってあげたい」はそれほど好きな曲ではなく、ユーミンにしても中学生のボクにしたら、(みなれたアイドルに比べて)ただのおばさんであった。
なので、どうして彼女のアルバムを買ってみようと思ったのか全く思い出せないのである。
アルバム全体としては、Working Girlsの夕方から明け方までを切り取った風景、という印象を持つ。
決して、さわやかな太陽やその下での風景は、このアルバムからは感じられない。
歌詞のあちこちに散りばめられたキーワードと曲調から、若干のけだるさが残るのは1曲目、2曲目の印象が強いためかもしれない。
そして、このアルバムからユーミンの快進撃が始まる。
アルバムチャート1位の連続記録がスタートすることになるのだ。
曲 目
作詞・作曲 : 松任谷由実 編曲 : 松任谷正隆

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懐かしんだり、アルバムの雰囲気をお楽しみください。
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1. タワー・サイド・メモリー
ポートピアの開催中に付き合っていた彼との思い出をなぞっている主人公。
ポートピアも終わってしまって、街の電気も消えて、ふたりの気持ちも平静にもどって、別れて。
昔の自分を「あの娘」と客観的に呼んで、純情なkobe girlだったね、って思い出している。
この現在のkobe girlは、仕事などで落ち込んでいて、あの時彼がさらってくれていたら人生変わっていたかも、なんて当時を思い出しているのではないかと思ってボクは聴いています。
「タワーサイド」「モノレール」「ポートピア」「ただの夜(それまでは特別な夜だったということ)」などのキーワードが、神戸よりもはるかに小さい地方都市にいたボクには、かなり遠いキラキラワードのように聞こえました。
また元カレもかっこいい彼で「いちばん素敵なきみだけを見てた」なんてほざいて女性を口説いています。
当時のkobe girlはそれにうっとりしちゃったんでしょうね。
余談ですが、時代時代に土地とキーワード、土地と流行みたいなものがあって、それがその時代の雰囲気をにおわせるってことありますよね。
1984年アルバム発売の大江千里の「かわいいハートブレーカー」も神戸が舞台なんだけど、やはり「ポートランド」という歌詞が出てくる。
当時の神戸とポートピア、ポートランドは切り離せないということと、これらの単語が登場するだけで、当時あの場所の空気感のようなものが伝わってくる気がしますね。
2. 街角のペシミスト
ユーミンのアルバムは2曲目にインパクトのある曲が多いですね。
次のアルバムの「真珠のピアス」も2曲目。
ということで、この曲もこのアルバムのタイトルを総括していると感じます。
まず主人公の女子は「スタジオ」で仕事を終えているので、シンガーかモデルでしょうか。
ユーミン主体で考えるとシンガーだし、でも歌詞の内容からするとモデルさんだと思います。
今の時代に近ければモンロー女優ということもあり得ますが、35年前ではその選択肢はないでしょう。
で、この女子は仕事が終わって化粧を濃い目に直して、ディスコに行きます。
明日どうなるのかしら、って強めの酒ダブルを飲みほし不安をかき消す。
けれど平凡だけはいやよ
故郷への想いはあるけど、平凡はいや、って東京に残っている。
だけど、ディスコに通い、ときどき男に引っ掛けられて朝を迎え、この種の女の「平凡」な行動をしていることに気付けないでいる。
娘たちはやがて 踊りすぎた金曜日を 卒業してゆく
こういった生活を卒業し、また違う「平凡」の中に生活をスライドしていく。
胸にくすぶっている夢の炎を守りながら。
3. ビュッフェにて
ビュッフェ付きの特急列車で金沢(wikiより)に向かっての失恋旅行中ですか。
友達は事情を知って付き合ってくれている。
元カレと連絡を取りたいけど、言い訳できる理由もない。
もしかしたら、ハガキを出す口実の金沢旅行なのかもしれない。
まだ愛しているからしばらく待ってみるわ。淋しく暮らしているなら連絡してきて、と。
それにしても、この昔の友達は本当に大人である。
旅行に付き合ってくれているだけでなく、ビュッフェへひとり席を立つ時も事情を察して放っておいてくれる。
leave her alone
主人公は今は元カレしか考えられないかもしれないが、後々、いい友達を持ったと気付いてもらいたいものです。
4. 夕闇をひとり
このアルバムと同時発売でシングル発売された曲、および宮崎美子への提供曲。
当時、宮崎美子のアルバム「メロウ」をカセットテープに録音して繰り返し聞いていたが、その1曲目がこの曲である。
ボクはユーミンも聞けば、宮崎美子も聞いていたので好きな歌ではあるが、内容とアレンジの暗さに、正直なぜこの歌がシングル曲?とは思ってしまう。
内容は、次の通り。
別れたあの人のいるところなら引っ越して行くし、相手(女)がいるなら連絡先を持って訪ねていく。
あの人との思い出はすべて取っておくわ、忘れるために時々それを見て泣くから。
もう一人で歩いていくつもりだけど、まだ未練はあるのよ、と。
まず「あのひとを愛してくれる女」を訪ねていくときに、「さくらんぼの包み」をお土産に持っていく、と言っている。
さくらんぼの賞味時期は1年のうちで2週間、長くて3週間である。
先にさくらんぼの土産ありきで、これをきっかけにしないと訪ねていく勇気が出せないのではないだろうか。
考えていることは威勢がいいが、主人公のキャラクターはごく地味な普通の女の子なのだろう。
5. 守ってあげたい
前曲に続き、この曲もシングル発売されており、映画『ねらわれた学園』主題歌でもあります。
ちょっとユーミンらしからぬ曲かなと思ってしまいますが、それは映画主演の薬師丸ひろ子用の曲オーダーかな?と勝手に推測しています。
薬師丸ひろ子のシングル、アルバム曲は、「元気を出して」とか「すこしだけやさしく」とか、母性全開の歌がテーマになっていたようです。
この「守ってあげたい」は薬師丸ひろ子の曲ではないが、主演のイメージと映画のストーリーから、ある程度内容を指定されたと思えるからです。
曲の中身は、ボクの理解力がないからでしょうか、子供のころからの関係で、何も心配いらないのよ、守ってあげるわという以外の部分はよくわかりません。
6. カンナ8号線
ボクがシングルカットするなら、アルバム中一番華やかなこの「カンナ8号線」である。
まずイントロがいい、曲がいい、のりがいい。
「中央分離帯」の無機質な言葉を、あのメロディーに載せられる人はなかなかいないと思います。
うらまないのも かわいくないでしょう だから気にせずに
歌詞も最高ですね。
ああ、そういえば「チェックのシャツが風にふくらむ」の歌詞を聴くと、管理人くんの映像が浮かぶって、昔、誰かに言われたことがあるような、ないような。
だから好きなのかな?この曲。
7. 手のひらの東京タワー
はじめて歌詞をじっくりと読んでみたけど、いい歌ですね。
かなり意訳になるけど、
あなたと見たい私の夢は、全部東京タワーにあるの
あなたと行きたい場所も展望から指させるわ
東京タワーは置物だけど、この掌の中に夢が全部おさまってるの
私からのプレゼントです。
今井美樹のカバー動画
今井美樹さんもユーミンの大ファンのようで『Dialogue -Miki Imai Sings Yuming Classics-』というユーミンの曲だけのカバーアルバムを出しています。
オリジナル発売から何十年も経って、好きなアルバムの1曲を他の人と共有できる感覚はすごく素敵ですね。
8. グレイス・スリックの肖像
グレイス・スリックというのは、ちょっと前の時代に生きたシンガーなんですね。
人物の背景が分かりませんので、あまりあーだこーだとは書けませんが、彼女の具体的な行動や作品について歌詞がかかれているんでしょうね。
背景を知らないままの曲の感想としては、すごく重厚な感じで次のように始まります。
私を忘れてから もうどれくらいたちますか
恋愛の歌にも聞こえますね。
次の曲、「グループ」が軽い曲調なので、なおさらこの曲の重さが目立ちます。
9. グループ
この曲は結構気に入っていて、次のパートが胸を打ちます。
いくつもの恋が生まれたり消えたり あなたは仕事で遠くへ行った
この部分だけメロディーが違っていて、繰り返しはないんですよね。
この一文とメロディーがなければ、この曲は成り立たないというほど重要です。
それにしてもユーミンの歌にしては珍しいんじゃないですか、グループ内での男女関係って。
新郎新婦と私とカレの4人で仲良しグループだったのでしょう。
既に固まった二人(新郎新婦)以外、つまり私とカレの再開に期待と不安もある状態。
10. A HAPPY NEW YEAR
この曲を聴くと、田舎に住んでいた時の雪の中の2年参りを思い出します。
相手は、兄。
ちっとも色っぽくありませんが、夜中の寒さと新年の空気の澄んだ感じ、がピアノ一つで始まる、この曲に合っているように身体にインプットされてしまっています。
曲の中ではもっと色っぽいストーリーで、新年にまっすぐに恋する女性の気持ちを歌っています。
ただ、聴き終わった時になんとなく寂しい気持ちになります。
今年も沢山いいことが あなたにあるように いつも いつも
この部分が寂しいんですね。
最後のフレーズが「今年も沢山いいことが 二人にあるように いつも いつも」なら、良かったのですが。
なんだか別れを予感しているようですもんね。
最後に、amazonのレビューから共感できるコメントを引用させてもらいます。
一度は聴いて欲しい上質なアルバム
80~90年代のユーミンのアルバムはほぼ持っているが、このアルバムが自分にとってはno. 1。当時、貸しレコードからテープに録音して、擦りきれる位聴いた。cd で再リリースされた際、即買いし、今も大事にしている。前作の「時のないホテル」も好きだが、この頃、ユーミン自身スランプ状態であり、決死の覚悟で制作したアルバムだと記憶している。全体的に少し陰な感じが当時のユーミンの心情を表していると思う。松任谷由実の分岐点となったアルバムでもある。
———AMAZONレビューより———
そうですね、全体としてまとまりがあるようでないような、大分試行錯誤して制作した様子が伝わってくるようであります。
ただ、このアルバムが存在しなければ、名作「パールピアス」へは繋げなかったのではと思うと、貴重な生みの苦しみの1枚といえるでしょう。
ちなみにボクの思い入れのあるアルバムでもあるせいか、この記事を書くのに他レビューの倍の時間はかかりました(苦笑)
■『Delight Slight Light KISS』 松任谷由実 1988年 レビュー
■『REINCARNATION』 松任谷由実 1983年 レビュー
■『PEARL PIERCE』 松任谷由実 1982年 レビュー
■『昨晩お会いしましょう』 松任谷由実 1981年 レビュー