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「PEARL PIERCE(パールピアス)」名盤レビュー
このアルバム PEARL PIERCE(パールピアス)とは
1982年発売のアルバム PEARL PIERCE(パールピアス)は松任谷由実 13枚目のアルバムである。
当時を知っている人なら、「ユーミンは深夜のファミレスに表れて、密かにOLの会話を聞いて。歌の題材にしている」といった話を聞いたことがあるだろう。
この歌もファンレターに書かれた女性の実体験がベースになっている。
「他に女ができたみたいなんで、耳のピアスを一つ外してベッドの下に捨ててきちゃった」って。
男としては怖すぎる話ではある。
ごみはゴミ箱へである。
タイトル曲「真珠のピアス」はこのようにインパクトのあるものであるが、他にも「ようこそ輝く時間へ」「DANG DANG」など特徴的な曲もある。
比してその他の曲は、比較的静かで、女性特有の内面を表しているものが多い。
このアルバムに限らず、ボクの音楽の聴き方は歌詞を意識しないで、まず何度も何度も繰り返し聞いてみる。
歌い手によっては聞き取りにくいこともあるが、引っかかる曲、好きになる曲の歌詞を後々調べてると、歌詞と自分の心情が近く「うん、わかるわかる」と納得していることが多い。
でもこのアルバムに関しては、何度も何度も聞いているにも関わらずストーリーの内容はそれほど記憶に残らない。
それだけ、ボクが理解できない女性の心情を歌っているのかもしれない。
アルバムとの付き合いは長いが、このレビューを書くにあたって初めて意識する歌詞もあるはずである。
サウンド的にはドラムもピアノも一音一音抜けるように録音されており、昼から夕暮れぐらいまでのさわやかな感じを印象付けている。
前作「昨晩お会いしましょう」が「太陽が沈んだ後の世界」をイメージさせるのとは逆で、このアルバムは「太陽が見えている世界」での10 STORIES である。
曲 目
作詞・作曲 : 松任谷由実 編曲 : 松任谷正隆

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懐かしんだり、アルバムの雰囲気をお楽しみください。
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1. ようこそ輝く時間へ
「大人になったら宿題は、なくなるものだと思ってた」で有名な1曲目である。
当時のレコードレビューで評者が「本当にそう思っていたけど、宿題はなくならないね」と書いていた。
今井美樹は、数年前に出したカバーアルバムでこの曲をセレクトしている。
「暗くなってお別れの時間が来ちゃうけど、今日だけは、時間を忘れて、あなたと夢の時間を楽しみたい、子供のころ行った遊園地のように」
暗くなってお別れの時間というところに、ちょっと不倫っぽい響きも感じられるかな?
ちなみに、このころはバブル絶好期で、夕方から閉園まで遊園地の貸し切りなんて、普通にあったような気がします。
IMAI MIKI COVER
2. 真珠のピアス
ギターの前奏で始まる有名なタイトル曲。
この曲知らないという人は、ぜひとも一度Amazonのリンクで視聴してみてほしい。
ああ、この曲か、となるんじゃないかな?
「一緒に暮らそうか、などとちょっと前に話していた彼氏が、新しい女と付き合っているようだ。気付いていないふりで彼にじゃれつくと、ぎゅっと引き寄せるけど、どんな顔して私をだいているの?紙飛行機に載せてあなたとの夢は飛ばしちゃうけど、気持ちの半分はベットの下に置いていくね」
当時の僕は、世の中の男性(いや女性も?)がそんなに頻繁に浮気をするものだとは知らなくて、純粋に、女性がかわいそうだなあ、と思っていた。
ははは。
ボク的には、この曲は「ようこそ輝く時間へ」とセットで聞きたい。
というわけで、この曲はベスト盤ではなくアルバムで聴きたい、というところがボクのややこしいところでもある。
3. ランチタイムが終わる頃
「辞めた会社の近くのレストランに、社員がいそうな時間に合わせ来てみた。季節外れの服だったなんて元カレに伝わらないように、早めの半そでを着てみた。元カレとの関係を知っている知人は、連絡とか取り合ってるの?って聞いてくるけど、首を横に振ると、そうだよねあの人すごく忙しいから手紙も出せないかも、ってフォロー。私も半笑いであいずちを打つ。時間になって、みんな会社に戻って、私は舗道で一人たたずむよ。時間も場所も、もう場違いみたいだね、ランチタイムが終わるね」
結構、ネットで検索しても解釈の別れる歌詞みたいですが、私の解釈は上の通りです。
気になるのは「手紙も出せぬほど 忙しいのよ」っていうのは誰のセリフかということ。
状況が同じじゃなくても、歌詞のような疎外感というのは身近に感じる機会があるような気がします。
4. フォーカス
初々しい、恋の成就の歌である。もちろんハッピーである。
こんなハッピーソングばかりだと、ベッド下にピアスを置いてくる必要もないんだけどね。
wikiによると、当時創刊されたFocusという写真雑誌から名前を拝借してこの曲を作ったとか。
いわばタイトル先(セン)である。
5. 夕涼み
「夕方のガレージで、あんなふうにして二人じゃれあってたね。
瞳に月が映るぐらい近くに顔があったね
陽差しの魔法はとても短いから、願いごとも消えちゃうと悪いから
叶いそうになったら教えるよ
あの夕涼みは、今でも思い出せるぐらいすごく楽しかったわ。
でも、その分別れた今では
二人きりの夕涼みは 哀しすぎる記憶
に思えてしまうんだよ。もう二度とないんだね」
いい歌詞です。
戻らないものは戻らない、別の誰かと作るしかないんですね。
主人公は案外、幸せな時(例えば今の彼にプロポーズされた後)にこの情景を思い出しているのかなあ、そうだといいなあ、と期待してしまいます。
6. 私のロンサム・タウン
ごめんなさい、正直、全くボクの心に響きません。
歌詞も響かなければ、メロディーも響きません。
WIKIによると、新潟のご当地ソングとのことですが、新潟の人は喜んでくれているといいのですが。
7. DANG DANG
以前の仮タイトルは「土用波」、これは歌を聞けばぴんときますね。
メロディーも、歌詞も、曲の構成も、アレンジも好きな曲です。
でも、冷静に歌詞を解釈してみると、ちょっと???である
「あなたにふさわしいのは自分じゃない、って別れ話をして、でもあきらめられなくて、新しい彼女の友達になってでも、あなたの顔が見たい。時々すれ違っては会釈をして、彼女と仲良くやっている姿を見て胸を痛め、何も感じなくなるまでそばで見守りたい。土用波のように砕け散っても」
ユーミンは時々ものすごい歌詞を書く。
「まちぶせ」なんかはその典型だろうけど、この「DANG DANG」もなかなかにホラーである。
自分から身を引いておいて、それでも会える機会をうかがうために彼女と友達になって、もし彼の関心が自分に戻ってきたら、どうするのであろうか?
彼女に「ごめんなさい、あなたに近づいたのは彼を奪い返すためなのよ」って、のたまわうのであろうか?
そして、彼女を放っておいて男と寄りを戻すのであろうか?
それとも「ううん、そんなこと全然期待してないよ」、なんて平気で言っちゃうのか、下心を隠して。
(ここから男性のみ)
「それしかあなたに会うチャンスはないもの 今は」って、何のプライドだ?
嫌われずに「会うチャンス」がないだけだろ?何を期待してるんだ、バカ!
そんな腐った考えだから振られるんだ!
彼女を巻き込む前に、元彼氏に直接交渉しろ!
もっと長期計画か?今の彼女と別れる時期を逃さないために、彼氏を見張るために彼女の友達になるのか?
このストーカーめ!
(ここまで男性のみ)
ただただ、ボクにはこの女の考えが気持ち悪く感じる。
が、これは土用波のように、たまたま気持ちが盛り上がった時に、ぼんやりと考えたことだよね。
実際は、彼女に近づかないよね。
そうであってください。
8. 昔の彼に会うのなら
「昔の彼に会うことを想像して、デートコースやおしゃれなどを考えてみるわ。
彼「あれからしあわせそうにしてると聞いたよ」
わたし「いいえ 私 退屈な毎日」
なんて会話ができたらいいわね。
でも、(私はむかしのままだけど)彼の気持ちはきっと変わっちゃっているよね。
会わずにこのままでいいよね。
期待しないほうがいいよね」
彼も同じ気持ちだから、会ってみたほうがいいよ、きっと。
9. 消息
字面通りに解釈すると、
「向かいのホームで音信不通だった彼を見かけて、でも私の電車は発車していて、私の存在は彼にとって点のように小さくになっていく」
って、ことなのでしょうか?
この情景が単なる比喩なのか、本当の光景なのか、それさえも判然としません。
曲調からは本当に永遠の別れぐらいの、重い響きがあり、それがまたボクを混乱させます。
この状況が現実で、彼に会いたかった場合、同じ駅の反対ホームで同じ時間ぐらいに男を張り込むということもできるでしょう。
しばらく会えずにいたのに、「それでも愛して愛していることを」って、どういう状況でどういう風に別れたのか?
苦しんできた過去が、会うことでどういうふうに解消されたのか?
謎は多いですが、それだけ自分に置き換えて聴ける歌といえるかもしれません。
ユーミンにはユーミンの言葉足らずのストーリーがこの歌にはきっとあるのでしょう。
10. 忘れないでね
「彼には奥さん(もしくは同棲している彼女)がいる。
さみしいからかけるけど、夜中にコールが3回なって切れたら、それは私だよ。
奥さんを心配させないでね、いたずら電話だって。
でも、私のこと忘れないでね、明日会えるよね」
歌詞の状況は、中島みゆきの歌に近いものがありそうです。
みゆきさんの歌であれば、主人公はこの男の恋人で、どうにか悪ぶって、彼を新しい彼女のところに行かそうとするかもしれません。
彼が、新しい彼女を選択する前に、自分が決断することでダメージを減らそうとするかもしれません。
しかし、この歌は松任谷由実なので、まるで違います。
浮気相手である自分と彼以外は一切、関係なしです。
夜中に3回コールしても関係なしです。
いたずら電話だとしても、何度も続けてかかってきたら現代版ホラーです。
強いです、怖いです。
きっと周りの人にも気付いてほしいのでしょう。
二人の関係を。
一言言わせてください。
男性は不倫相手を間違えています。
最後に、amazonのレビューから共感できるコメントを引用させてもらいます。
「DANG DANG」の意外と知られていないいきさつ
おそらくこのアルバムの核となるこの曲の2番の
「彼女は知らないなら友達になるわ それしか貴方に会うチャンスはないもの 今は」のくだり。
実はラジオリスナーのハガキから出来たフレーズであることはご存知ですか?前作「昨晩お会いしましょう」に収録された「夕闇をひとり」にある
「あの人を愛してくれる人」というフレーズをテーマに「あなたならどうする?」という問いかけに
「友達になる。会えるチャンスがあるから」との回答があり、
ユーミンは「いいな、これ、もらい!」とコメント。
そしてその後発売されたこのアルバムで、その反応が嘘ではなかったことがわかりました。
このフレーズもさることながら、インパクトがありながらも限りなくリアリティ溢れる歌詞のすごさ。
段々と大きくなる悲しみを「土用波のように」と例えることを他の誰が出来るのでしょう。また、この頃は変装してファミレスへ行き、周りにいる若いカップルの会話を盗み聴きして
ライターとしてのインスパイアを得ていたというユーミン。
アンテナは常に張り巡らせているというプロの姿勢ですね。「DANG DANG」は間違いなく、彼女の作品の中でも10本の指に入る佳曲であると思います。
———AMAZONレビューより———
そうなんですね。
「DANG DANG」もユーミンのリサーチから生まれた曲でしたか。
松任谷由実がシンガーじゃなかったら、どんな職業についていると思う?という問いに桑田佳祐が「銀座のママ」と答えた話がありますが、まさにユーミンの職種はミュージシャンというよりもプロデューサーに近いかもしれません。
■『Delight Slight Light KISS』 松任谷由実 1988年 レビュー
■『REINCARNATION』 松任谷由実 1983年 レビュー
■『PEARL PIERCE』 松任谷由実 1982年 レビュー
■『昨晩お会いしましょう』 松任谷由実 1981年 レビュー