『寒水魚』 中島みゆき 1982年 レビュー

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「寒水魚」名盤レビュー

このアルバム 寒水魚とは

この寒水魚は中島みゆき9作目のオリジナルアルバムである。

1曲目の悪女が前年に大ヒットして、満を持してのアルバム発売である。

レコード店で予約をして、発売日に買い、レコード盤に針を落とした時にすごいショックを受けたことを覚えている。

後藤次利が編曲し、歌い方がロック調に変更されていたのである。

やだな、やだな、とずっと思ってきたが、発売から30年を超えてオリジナルがどのようなものであったか、雰囲気以外正直忘れてしまった。

それで、ボクの悪女はこのアルバムバージョンが標準となってしまった。

良かったことは『寒水魚』に対するイメージが大ヒット曲、悪女に引っ張られすぎないものとなったこと。

その他の曲は、さすがに悪女と同時期の作品だけあって、詞の世界に十分に奥行きと深さがあり、状況は大したことなくても彼女が落ち込む理由をすべてのリスナーに納得させる秀作揃いである。

その中でも、ボクにとっての核は『家出』『時刻表』『砂の船』の3曲である。

曲 目

  1. 悪 女
  2. 傾 斜
  3. 鳥になって
  4. 捨てるほどの愛でいいから
  5. B.G.M.
  6. 家 出
  7. 時刻表
  8. 砂の船
  9. 歌 姫

全作詞/作曲: 中島みゆき

↑クリックで試聴できます

懐かしんだり、アルバムの雰囲気をお楽しみください。

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1. 悪 女

明石家さんまが、この曲のことをテレビでべた褒めしていた時期があった。

あの歌詞がいいよねえ、と。

基本バラエティなので無理やり話をぶちこまないと、その話はできない。

それでも、彼は何度かその話をテレビにぶちこんでいた。

すごくキャッチィな曲だし、歌詞もいい、でも、そんなにさんまが繰り返し言うほどかな?と当時は思った。

でも完全に間違い、ボクはこの歌の何もわかっていなかった。

ボクみたいな鈍い者が、歌詞の字面だけでなく、感情までも理解するのに長い月日がかかった曲です。

男としては月夜に悪女を演じてもらったほうが、正しい選択がしやすいです。

2. 傾 斜

アルバムの聴き始めの頃はこの歌が一番気に入っていました。

アレンジが後藤次利なので聴きやすいのかもしれません。

歌詞も非常に分かったつもりになれる曲です。

悲しい記憶の数ばかり 飽和の量より増えたなら

忘れるよりほかないじゃありませんか

この歌詞に集約されると思います。

3. 鳥になって

正直、これしきのことで、子供の国へ帰るために眠り薬を飲まれたらたまりません。

寝ているとき彼が昔の彼女の名前を呼んだのは、完全に条件反射である。

ご飯を出せば、犬はよだれを分泌します、それと一緒です。

彼があなたに昔の彼女の影をみてるっていうのは、考えすぎだよ。

逃げないで、彼の思い出を書き換えてください。

曲だけ聞けば納得してしまうけど、大した状況じゃないので、考え方を改めて幸せになってください。

4. 捨てるほどの愛でいいから

もうタイトル通りの歌です。

もう泣きながら歌っています。

「最初からこんなことだと分かっていたけど、気付いたらまた一人になっていたわ。

誰にでもやさしくするのねあなた。

私みたいなものには心にしみるわ。

最初から冷たくしてくれたほうがまだましだったね。

でもやっぱり期待しちゃうのかな。

結局、あなたの気持ちは、愛でさえなかったね」

聴いているこっちまで泣きたくなってきます。

5. B.G.M.

「淋しい歌を歌ってたあなたをみつけ 恋する仲になった

 嘘でつきとめた電話番号をまわすと 女が出てあなたを呼び捨てにしてた

 部屋のB.G.M.はわたしたちの出会いの曲だったね

 みんな私をだますためのグルみたいね 思い出(B.G.M.)まで取り上げるの?」

電話番号を突き止めてかけてみる時点で、終わっていた話でしたね。

6. 家 出

中島みゆきの歌詞にしては非常に珍しいのではないだろうか。

家族の反対でかけおちのシチュエーション。

またこの状況は、人によっては非常にうれしいものという気がする。

「親を捨てて君をとる」って、

松任谷由実などだったらキラキラの駆け落ちソングが作れそうでもある。

でも中島みゆきは違う。

母親とけんかしてでも あなたを認めてほしかったと歌う。

「あなたがいればすべてだけれど それでも 私 ふりかえる」と歌う。

「あなたを 愛してる」と歌う。

7. 時刻表

ぽつり、ぽつりとつぶやくように歌う時刻表。

この歌い方が曲にあっていて、なんとも淋しい気持ちになる。

最近のみゆきさんの太い歌い方だと大分イメージが違うんじゃないかな。

この時のみゆきさんの歌声でないと出せない世界観なんじゃないかと思うことも、この歌が好きな理由の一つ。

歌詞は部分部分は分かりやすいが、全体としては正解がないように思う。

海は誰かとの思い出の海ではなく、総称としての海であるが、なぜ時刻表を見上げて、今夜中に海に行きたいのかが今一つ掴めない。

おもいきり泣く、ために時刻表を見上げているんだ、とボクは勝手に思っている。

FAKEな世界で泣くことは、涙自体FAKEになってしまうと。

正解がわからないままでも、ボクがこの歌を一番好きなのは間違いない。

8. 砂の船

「この年齢になって希望も 愛もなく ただただ生きているけど

 沈むのを予感した 砂の船を漕いでいるよう

 目指す夢は消えるし 愛は逃げる

 それでも夢の数だけ、海に幾千の砂の船は進んでいく」

抽象的な歌詞ですが、ラスト曲『歌姫』の前曲としては十分に存在感があります。

ラストはこの曲と2曲セットと思ってもいいかもしれません。

9. 歌 姫

彼女はやっぱり歌詞がうまいですね、すごいね。

次の歌詞はなかなか出てきません。

握りこぶしの中にあるように見せた夢を

もう二年 もう十年 忘れすてるまで

中島みゆき自身、これからの人生を歌姫として歌っていくという決意をあらわした歌、って何かにで読んだ。

もう二年 もう十年、遠ざかる誰かのために、歌い続ける決意の歌であろう。


最後に、amazonのレビューから共感できるコメントを引用させてもらいます。

みゆき嬢 最愛の曲が入っているアルバム

みゆき嬢の数ある傑作の中でも、自分の最愛の曲はこのアルバムに収められている「時刻表」だ初めて聴いたのはラジオの深夜放送 鶴瓶と新野新の「ぬかるみの世界」聴いたとたんに目の前に風景が広がったスクランブル交差点 吉野家 ビニ本を売り始めた古本屋 雑踏 人ゴミ 赤や青の信号 シュプレヒコール バブル前夜の浮かれた酔っ払い吐息で温めた手のひら 読み捨てられた週刊誌 倒れてこぼれたホットコーヒー、街角にゴミ屑のように捨てられた寂しさ顔の無くなった女達 右手で握りしめたもて余した命 冷たく優しい月の明かり etc...

アルバムの完成度では「予感」に譲るかもしれないが、この冷静で透明で、だけど暖かい眼差しは、真っ直ぐに何十年先の大ヒット曲「地上の星」へと繋がっているのではなかろうか

———AMAZONレビューより———

ボクは「時刻表」を聴きながら、いつも新橋駅を思い浮かべています。

今はもう時刻表なんて掲示されていないのですが、新橋から一番近い海はどう行くのかな?なんても考えます。

街頭インタビューは多いです。

ため息をつきそうなサラリーマン、も、たくさんいます。

ボクはそっと、次の駅までの料金表を見上げます。


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