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スガシカオ 『 TIME 』レビュー
このアルバム
『 TIME 』は、2004年に発売された スガシカオ 6枚目のオリジナルアルバムです。
前作『Smile』から約1年半ぶりのリリース。シングル曲「光の川」、「秘密」、「クライマックス」を収録。
うろ覚えだが、オリジナルの音、他では聴けない音をなるべく詰め込んでアルバムにしたということをスガシカオが当時語っていたようだ。
おそらくデジタル楽器で音作りをするとみんな同じように聞こえるので、外部でのサンプリングなども積極的におこなったんじゃないかなと思う。
確かに「魔法」にはブランコの音などが入っていて雰囲気を出している。
曲 目
1. サナギ
松竹配給アニメ映画『劇場版xxxHOLiC真夏ノ夜ノ夢』主題歌。
スガシカオお気に入りの1曲です。
何かの機会にこの「サナギ」の歌詞だけ朗読したり、「TIME」後のシングル2枚に続けて「サナギ」をカップリングしたりと、もうやりたい放題です。
このアルバムから1年半も後のシングル「19才」にもカップリングされたときには、正直「また、サナギかよ~」と口に出していました(苦笑)
もしかしてスガさんは「あれ、なかなか世間に伝わんねえなあ」と思いつつ、連投したのかもしれません。
いやいや、伝わっているんだけどなかなかリアクションに困るし、人にも大声で勧められないし、というのが大方のファンの気持ちだったのでは無いでしょうか。
でもこの連投も実際には主題歌のアニメの映画、TV用のリミックスを、その都度発表しているということでしょう。
(歌詞はこんな感じです)
わたしを馬鹿にしているような男の指でも、あそこを無遠慮に触られると、ゾクゾクしてイヤじゃなかったわ。
そんな男がわたしの前から消えちゃったけど、わたしはサナギのようにじっと部屋に一人
美しい蝶になって羽ばたくことを夢見て 生まれたての濡れてる羽を休ませているの
あの男の記憶は消してしまうわ 思い出して泣く前に
忘れられる日が 本当にくるでしょうか
そんな素晴らしい日が 本当に?
いいんですよね、こんな詞、他のシンガーソングライターに書けません。
(歌詞から抜粋)
家畜に名前がないように あなたの名前を忘れてしまうの
考えすぎかもしれませんが、上の歌詞から村上春樹の初期作品のにおいがします。
「鰯」の話のところといえば、ぴんと来る人はぴんとくるかも。
知らなくても日常に影響はありませんので、念のため。
2. カラッポ
10年以上前のアルバムではあるが、「はみ出しちゃってるボインのピンナップ」っていう歌詞は当時としても随分古い言葉であったことは先に言っておきます。
1970年代ぐらいの言葉じゃないかな、明星、平凡、プレイボーイとかが全盛の時代。
「やけくそでねたバイト先の女の店長」
本当にカラッポなやつらで、うんざりである。
まともなのはボクしかいないな。
3. 光の川
TBS系ドラマ『こちら本池上署』主題歌。
当初、曲はできたもののアレンジがなかなか決まらなかった。
基本となるリズムセクション、特にドラムパートで悩んでいたが、ドラムの沼澤尚から提案され現在のアレンジとなった。
確かに、メロディーと詞だけでこの曲を聴くと、ギターの弾き語りが合いそうである。
ポローン(ギターの音)、少し動き出した~ ポローン(ギターの音)、週末の渋滞の中で~
と、この曲調で作曲していたら、プロドラマーのアドバイス無しでは今のリズを生みだすのは難しかっただろう。
この「光の川」はドラマの主題歌であるにも関わらず、シングルの最高順位は当時としては低調の23位であった。
(歌詞の内容はこんな感じ) 渋滞の中で、誰かの助手席に乗る君を見つけた。 間違いないか見ようとするけど、進み出す車 距離は離れていくばかり 何か伝えなきゃとあせるけど、言葉は何も思い浮かばなかった。あの時、君を救いたいと願ったけど 涙の拭き方もわからずに 今、君の姿を追いかけようとしたけど 車は信号で遮られるすべての祈りが 輝きはしないけれど 車はいつの間にか 光の川に消えてしまった |
正直、ボクはこの歌を「黄金の月」に近いぐらいいい曲だと思っている。
アレンジもいいが、歌詞も最高である。
ストーリー仕立てで、毒の無いスガシカオにリスナーが慣れていないことも原因かもしれない。
また「黄金の月」が強い決意でリスナーの共感や応援を呼ぶのに対し、この曲はボンヤリした願いで「だからどうしたの?」とちょっと突き放してしまう人も多いだろう。
でも、いいのである。そうやって各々の願いをのせた車が光の粒となって道の先で「光の川」を作っていくのである。
すべての祈りが輝きはしないけれど、ね。
4. アーケード
16枚目のシングル「クライマックス」収録。
真夜中にカップルがそれぞれ家を抜け出して待ち合わせたノスタルジックな雰囲気の曲。
これはスガシカオにとって大事な曲なんじゃないかな。
彼は自身にとってセンシティブでナイーヴな曲をシングルのカップリングにしたり、アルバムの4曲目に入れる傾向があると思うんだよね。「ぬれた靴」とかこの曲とかね。
地域、家族というものに縛られた場所ながら、そういうしがらみや年齢を忘れて二人一緒にいれた地元の真夜中のアーケード、ボクには経験が無いけど特別な場所なんだよね。
真夜中の暗いアーケードは、二人だけの世界で言葉やルールはいらないみたいだ。嫌な声や冷やかす声も届かない。誰かがとめるなんて出来るわけが無い、そう思っていたんだ。
5. クライマックス (Album Version)
意外だったのは、この曲をスガシカオがシングルに選んだこと。
スガ本人は前後のシングルの曲調やバランスを考えて、この曲もシングルにしたと言っていたと思う。
どうして意外かというと、あまりに普通のミュージシャンがシングルにしそうな曲だから。アレンジも派手で格好いいし、歌詞も軽く表面をなぞるとまともにも読める。
「ぼくがぼくであるために 明日がありますように」
ちなみにPVは稲川淳二が出演する、歌とはあまり関係ないものである。
もしかして、クライマックスと怪談のオチをかけあわせたのかな?
6. June
積水ハウス「シャーメゾン」のCMソングである。
この曲はもともと存在しない歌だった。
というのも、この曲は作り始めてもいない段階でアルバム曲は揃っていたからだ。
それが制作終盤になって、全ての曲データが壊れてしまった。おそらくPCのハードディスクの故障が原因。
あちこちに散らばっていたデータを集めなんとか復旧したものの、データが戻らずお亡くなりになった曲もあった。
そして、スガシカオはアルバム発売に間に合わせるように一からこの曲を作ったという。
ヒネりも歪みもない、純粋なポップス曲であり、スガシカオが作って歌うから意味のある歌だと思う。1周まわって普通の曲みたいに、スガシカオの楽曲を素直に捉えられないリスナーの心理はあると思うが、実は1周回らずに足を固定して打ち合ったあ王道ポップス曲です。
(こんな歌です)
主人公は、大学か就職で自分の暮らした地方を離れてしまった青年。
何か新しいことが始まるんじゃないかと、新しい街に来たけど不安とため息ばかりの毎日。
夏が近づき、田舎を思ってももう帰る場所も無いなと思う。
ずっと連絡していなかった元彼女にあてて「元気でいます」と手紙を書き出した。本当は元気なわけないけど。
彼女に伝えていい言葉はそれぐらいしか思い浮かばないんだ、今は。
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6月の湿気を含んだ夏の薫りを感じるような「JUNE」です。
PVも短編ストーリー仕立てになっていますので、埋め込み動画でご覧ください。
7. あくび
10年ぐらい前のライブで、スガさんはこんなことを言っていた。
「この曲を休憩曲のように考えている人もいると思うけど、オレ、本当に眠れなかったんだよね。その苦しさを歌にしたんだ」と。
誰かの大がかりな企みで、ボクを眠らせないようにしている、って、昔「ゲーム」って大がかりな仕掛けの映画があったな。
もう一度見たくなったな。
結論は、眠れない男のはなし、の歌でした。
8. 魔法
最近芸能人のクスリの話題が多いので、コメントは難しいが、歌詞中のマホウノクスリは覚醒剤では無いらしい。
でもそのクスリを飲むと、暗闇から小さな虫が壁にわいたり、サカナが腐ってるニオイがするって気になって血が出るまで手をあらったり、してしまうらしい。
って、本当にシャブじゃないのか?
9. 秘密
いいですね、スガワールド全開です。
付き合っている彼女に「二人が会っていることは内緒にしよう、廊下ですれ違っても振り返ったり、そわそわしたりしないでね」と念押しをし、「ねえ誰にも相談していないよね。今の関係って、別れたら何も無かったことにできるし、いろいろと都合がいいじゃない」
もう秘密にしながらやりたい放題です。
「二人だけの世界を誰にも邪魔されたくないんだ、ボクがそれを守るよ」
もう勝手な理屈を言いたい放題です。
4thアルバムの「かわりになってよ」に通じる近年まれに見る最低な曲です。
10. 風なぎ
フジテレビ系アニメ『ハチミツとクローバーII』挿入歌
OAD『xxxHOLiC・籠 〜XXXホリック・ロウ〜』主題歌
アルバムの最後の曲はアコースティック調のアレンジの曲が多いが、この曲もその一つである。これらの曲はボクは大好きなんですよね。
前作のように毒は無く、ただただ風なぎのような平穏さ=虚無感だけが胸に広がる歌である。
(こんな歌詞)
はじめから君は別れるつもりでいたのかな?
手も振らずに去って行くけど、ボクより悲しくみえるね。
誰を憎んで、何を我慢すればいい?
ボクの胸ははりつめて、涙だけが落ちるのです。
今日 ぼくたちはそれぞれの光を探し
あたりまえのように 明日へと歩き出します。
光の川の軌跡を残して。
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