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「REINCARNATION(リ・インカーネーション)」名盤レビュー
このアルバム REINCARNATION(リ・インカーネーション)とは
このアルバムは、松任谷由実 14枚目のオリジナルアルバムである。
前々作「昨晩お会いしましょう」、前作「パールピアス」と快進撃を続けていたユーミンだったが、前2作と全く別のカラーを持ったアルバムを提供するあたりはさすがである。
もちろん、引き続きこのアルバムも総合チャートで1位になっている。
この時期、ちょうどレコードからCDへのメディアの移行期で、このアルバムはレコード盤で持っていたが引っ越し時に持って行かなかった。
それでも時々、無性に聴きたくなって、帰省時には必ずレコード盤に針を落としていたように思う。
このアルバムのCD発売は2年後の1985年であるが、この頃のアルバム作成はA面、B面構成であり、曲順にその名残が見えるようである。
「5曲+5曲」と「10曲続けて」は、自然と構成が違ってくる。
全体としては、タイトルの「リインカネーション(輪廻転生)」の名前の通り、恋の超常現象、現実を超える壮大な愛、大自然・時間と解けあう愛の行方など、書いてて恥ずかしくなるような「壮大な勘違い」かもしれない『愛』がテーマである。
「REINCARNATION」「ESPER」などはまさにアルバムテーマに沿った曲だが、「NIGHT WALKER」などはその対極にある。
彼との別れを描いた曲だが、このアルバムの1曲だけに「縁があるなら別れても次も巡り合うよね」との暗示がみえるようで胸にグッとくる。
曲 目
作詞・作曲 : 松任谷由実 編曲 : 松任谷正隆
懐かしんだり、アルバムの雰囲気をお楽しみください。
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1. REINCARNATION
強烈すぎる1曲目。
熱い腕の中で 今DE JA VUを見てた なつかしい景色へ さあ連れてって
全てこの歌詞に要約されます。
恋愛の一番楽しい時間を過ごしているあなたとは、過去未来絶対につながっていたはず、遠い過去から求めあって今結ばれているし、死を迎えても必ずあなたを見つけるわ、というベリーハッピーな曲です。
過去2枚のアルバムにも手放しにこれほどのハッピーを歌った曲はありません。
きっと現在のハッピーの量が飽和を超えてしまったので、過去や未来へ意識がいっちゃうのでしょう。
ばかばかしくて描けないような恋の幸せの描写をなんなくこなしてしまう、さすがにユーミンはうまいですね。
2. オールマイティー
ここ3枚続けてユーミンのアルバムの1曲目、2曲目と2曲続けてストーリーになっているような印象がある。
しかも2曲目の方が構成上大事な扱い(テーマに近い曲)になっている。
この「オールマイティ」も、実はタイトル曲「REINCARNATION」よりもこのアルバムテーマをよく表しているのではないかと思う。
いつでも恋のオールマイティー 一度しか使えないけど
という歌詞が続くが、実は「いつでも恋はオールマイティー」という意味で歌っているように、ボクには聴こえる。
3. NIGHT WALKER
ミドルテンポですごく良質の日本のポップスです。
私のことを傷つけてつらいと ひとに云わないで
すぐにすぐに忘れてしまうのに
私のことを「傷つけてつらい」と他人に話すことで、気持ちを楽にしないで。
その気持ちをずっと胸に抱いたまま、私のことずっと忘れないでいて。
という意味なのだと思います。
ボクのイメージとしては、夜更けに星空の下、別れたカレを想いながら川辺を歩いている、というものである。
でも歌詞を見ると街中の風景と心情しか出てこない。
このアルバム全体に言えるのだが、1曲1曲がどうというよりも、全体でトータルなアルバムイメージを作り出している感じがする。
この曲も「星空の誘惑」や「川景色」の世界に引っ張られて、妙な既視感にとらわれてしまう。
歌詞中にはペイブメント(舗道)という歌詞が出てくる。
このアルバム発売の翌年にはTHE ALFEEが「恋人たちのペイブメント」という曲をヒットさせたが、この言葉(ペイブメント)はカタカナ英語として日本に定着しなかったようだ。
またこの頃、カップルを意味するアベックというカタカナ外国語が定着していたように思えたが、今の子供たちにこの言葉は通じないらしい。
言葉というのはやはり時代を映しますね。
余談でした。
4. 星空の誘惑
この曲を聴くと、真夜中に山間部のお花畑付近に車を止めて、カップルで夜空を見上げている情景が浮かんでくる。
イメージの世界では、吸い込まれそうに星が大きい。
なかなかにずるい女心を歌った曲だが、このメロディーと歌詞だと納得してしまう。
男友達(ボーイフレンド)を誘ってドライブに行くのは 別れた彼がまだ忘れられないから。
わたしが泣いているからきっとボーイフレンドは戸惑っているでしょう。
いっそのこと、好きだって強引にキスしてくれたら、さらってくれたらどんなに気持ちが楽かな。
星空が綺麗だったから、と自分にいいわけできたらいいのに。
ボーイフレンドに構ってほしいのは、別れた後だからか、もともと好きだからか、どっちがどっちの運命と感じているのか、と考えているとこのアルバムに入れることがずるい。
これは好きな曲であり、アルバム中でテントの骨格みたいに大事な曲であるとも感じている。
5. 川景色
恋の一シーンを切り取った曲。
編曲の明るさに乗せられてポップに感じるが、スローテンポでピアノで弾き語れば、そこそこの質量のある歌である。
井上陽水の妻である石川セリさんへの提供曲であるが、そちらはまだ聴けていない。
6. ESPER(album version)
場面が変わって、B面の1曲目です。
コンサートなどですごく映えそうな、ユーミンらしさを感じる曲である。
1曲目「REINCARNATION」同様であるが、恋する女性の幸せ絶頂状態をエスパーに例えた曲である。
7. 心のまま
大筋とは関係ないんだけど、ボクは「霧状のものを何かに例える」歌詞が好きなんです。
大滝詠一の名作「A LONG VACATION」の1曲から次の部分
言いそびれて 白抜きの言葉が 波に浮かぶ
作詞:松本隆 スピーチ・バルーンより
スガシカオからは、みなさんお馴染みの次の部分
悲しみっていつかは きえてしまうものなのかなぁ
タメ息は少しだけ 白く残ってすぐ消えた
作詞:スガシカオ 夜空ノムコウより
これが「心のまま」でいうと次の一文となる。
私の見た雲は 馬のかたち あなた何に見えた
言葉にしてるまにちぎれてゆく それは愛に似てる
さすが、女性の作詞ですね。
男性陣が、言葉にしない想いを白抜き、タメ息で表現しているのに対し、ユーミンは変化していく雲を愛に例えている。
正直、この部分だけでもこの曲は満足(メロディーもいい!)なのですが、ちょっと曲全体に戻ってみます。
会えないほどひどい別れをしたあのひとに わたしの今の気持ちを伝えて
あんなに激しく気持ちをぶつけあったけど しけた海も銀の鏡になるよ
あなたをめざして 旅をするよ、心のまま。
とても愛している。
はい、喧嘩と恋愛は、負けを認めなければ負けたことにはなりません。
次の輪廻と言わず、現世でなんとかしてください。
8. ずっとそばに
このレビューを書き始めるまで知らなかったが、原田知世に提供したもので「時をかける少女」のカップリング曲だったようだ。
YouTubeで聞いてみたが、まさに原田知世純正の歌だった。
「聞き比べると、原田知世さんのほうが泣ける」とコメントされていたが、これはボクも激しく同意する。
そっと呼んで つらいならば 時を かけて行くわ
ユーミンが他人に提供した曲は、その人が歌ったほうがまずよく聞こえる。
それだけ歌唱者用に曲をカスタマイズして提供しているのだろう。
疑うこともなく知り合う人々を ”ともだち”と呼べた日々へ
いい詞ですね。
この部分はユーミンの歌い方が好きです。
さすがに13歳の原田知世にはちょっと早い歌詞かな。
9. ハートはもうつぶやかない
別れたカレにもう何の未練もないことを自己確認する曲。
普通はもう曲にさえならないような心の状態を、それでもキャッチーな曲にするというユーミンはすごいと思う。
時々は思い出して胸を痛めていたカレのことを、ある日フと思い浮かべると全く未練がなくなっている自分に気付いた。
もう、あなたの幸せも、あなたの相手の幸せも祈らないね。
10. 経(ふ)る時
時は繰り返す、歌。
ホテルのティールームからみる景色は、4月に砂時計をひっくり返したように毎年繰り返され、時間が空から経ってくるのが見える。
春は桜並木の花が咲き誇り
真夏には ボートが水に浮かび
秋は夕日が細長く スモッグの中に溶ける
二度と来ない人のことをずっと待っている気がする
愛した気持ちも 憎んだ記憶も 忘れかけていたとしても
最後に、amazonのレビューから共感できるコメントを引用させてもらいます。
———AMAZONレビューより———
やっぱいいわ
貸しレコード(LP)+カセットテープ時代の名盤を買いなおして聞いてみると、なんというか
懐かしいメロディーとかのレベルではない新しさ。歌詞も当時と違った響きでしみこむ。
お声もお若い(当たり前だ)ので安心して聴けるし、忘れてたのに一度聞くと全曲一緒に歌えるって
どうなの。でも同世代はみんなそうなんじゃないかな。
車の中で歌うときは信号待ち中の視線に注意しましょう。
そうなんですよね。
若いときアルアルで、この頃聴いていたレコードはアルバム全曲歌えるんですよね。
ボクは当時、このアルバムはカセットには入れていなかったので、必然的に聞く頻度は少なめでした。
が、前曲歌えます。
最近20年で覚えた曲なんて数えるほどですけどね。
■『Delight Slight Light KISS』 松任谷由実 1988年 レビュー
■『REINCARNATION』 松任谷由実 1983年 レビュー
■『PEARL PIERCE』 松任谷由実 1982年 レビュー
■『昨晩お会いしましょう』 松任谷由実 1981年 レビュー